スキップしてメイン コンテンツに移動

うつりゆくもの

季節はめぐって今日から水無月、6月ですね。

イタリアには梅雨がないので、散歩したいときは初夏の日差しを避けて日陰を選ぶようになりました。あるいは夕方、といってもこちらは夜8時でもまだ明るいのですが、夜ごはんの後に歩くのが気持ち良い時期になりました。

私たちは川のそばに住んでいるので、家のすぐ隣の橋を渡って反対岸の住宅街をしばらく歩き、もう一本先の吊り橋をまた渡って川沿いをぐるっと一周するコースがこのところのお気に入りです。

1時間くらい歩くことになるので昼間だとちょっとばてそうになりますが、橋を渡るときは川面から涼しい風が吹いてきて気持ち良いし、緑がたくさんあるので鳥の囀りなんかもよく聞こえてきます。

日本は今年、異例の早さで5月に梅雨入りしたと聞きました。もし梅雨明けも早まるのなら、真夏の猛暑もいつもより早く襲ってくるのでしょうか。この時期になるといろんなところで見るのが楽しみだった紫陽花がそろそろ綺麗に咲きだすのかなと想像していますが、お天気のサイクルがずれてからっからに枯れてしまわないかちょっと心配です。

こうやって季節の花の話をすると、日本ほど四季の移ろいを自然とともに感じる国はそうないような気がします。

今住んでいるイタリアにも四季はありますが、梅雨がないからか紫陽花も日本ほど地植えで咲き乱れているところを見たことがないし、秋は短いので紅葉狩りというほど色づいた木をゆっくり楽しむこともありません。日本では束の間に咲いては散っていく花に儚い美しさを見ていた桜も、こちらではどちらかというとサクランボのなる木として見てしまいます。

そんな日本から来た私の心の琴線に触れた絵本がこちら。もし私が日本語で出版するなら「うつりゆくもの」と題するでしょうか。原文はフランス語のようですが、こちらのイタリア語版を少し前に近所の図書館で借りて読みました。

この本を最初に目にしたのはたしか2019年のボローニャ国際絵本見本市。表紙の絵が印象的でいつか読んでみたいと思っていました。大人が手にとっても美しいと思えるようなちょっとした仕掛け絵本で、現れては消えてなくなるものが半透明のページを前後にめくることで表現されています。

悲しい気持ち、ピアノから奏でられる旋律、淹れたてのコーヒーの湯気、掃いてもすぐまた溜まる埃など。イラストの雰囲気や表現力も素敵ですが、その例として挙げられているもののバリエーションがまた良いなと思いました。

そして、この本には描かれていませんが、日々刻々と成長していく子どもの今こそ、もう過ぎては二度と戻ってこないとても貴重なもの。毎日スクスク育っていく息子の一挙一動を毎秒目に焼き付けたいと、この本をめくりながら思いました。

一番最初の投稿でご紹介したジャンニ・ロダーリの絵本のように、書かれている文章はとても短いので赤ちゃんやイタリア語初心者にもきっとお勧め。私が特に好きなのはこのコーヒーのページ。なんだか香ばしいそのにおいまで伝わってきそうです。

作者のベアトリーチェ・アレマーニャはボローニャ出身で、もう20年ほどパリを拠点に絵本作家・イラストレーターとして活躍しています。

実は、彼女の温かみのあるイラストに私が目を奪われたのは初めてのことではありませんでした。おそらく15年ほど前にフランスの本屋さんで見つけて気に入ったものの、買わないままタイトルも作者も忘れて絵だけが記憶に残っていたある絵本がなんと彼女の第一作目だったということが今日、偶然わかったんです。

ああ、あの時買っておけばよかった。とまた見つける手がかりがないまま幻の絵本となっていたその作品が彼女のウェブサイトに掲載されていて飛び上がるほど驚きました。

さて、今日ご紹介したLe cose che passanoについては残念ながらまだ日本語訳が出ていませんが、英語では読むことが可能です。面白いことに同じ本がイギリスではForever、アメリカでは原題を直訳したThings that go awayという別々のタイトルで売られています。出版社が違うからなんですが、こんなこともあるんですね。

私に版権が取れるものなら我先に日本語に訳して出版したいくらいです。ハリーポッターの松岡さんのようにベストセラーとまではならずとも、ほれ込んだ外国語の本を自分で祖国の言葉にして広めることができたらどんなに素敵でしょうね。なにか方法がないかあれこれ調べたり考えたりしているんですが、詳しい方がいらしたら教えてください。

さて、この絵本にはこんなオチがあります。人生は移り変わるもので溢れている、だけどただ一つ永遠に変わらないもの、それは…。

なんだと思いますか?

それではまた次回まで、buona giornata(ごきげんよう)!

この本について

題  Le cose che passano
著者  Beatrice Alemagna
挿絵  Beatrice Alemagna
出版 2019年 TopiPittori
原題(仏語)Les Choses qui s'en vontのほか、
英語、西語でも出版されています

いかがでしたか?次回更新のお知らせは Instagramで!

にほんブログ村 本ブログ 絵本・児童書へ にほんブログ村 子育てブログ 海外育児へ  にほんブログ村 子育てブログ 子供への読み聞かせへ

ブログ村に参加しています。

blogmura_pvcount

このブログの人気の投稿

はじめて息子が選んだ本

このあいだボローニャには今シーズン初の雪が舞い降りました。すっかり冬本番です。 さて先月、旧市街にある東洋美術研究所に初めてお邪魔してきました。 前回 お話しした図書館の読み聞かせイベントで知り合った日本人のお友達が、ここで日本語絵本のバザーがあると教えてくれたんです。 研究所には例年ボローニャ国際絵本見本市へ日本の出版社が持ち込んだものが寄贈されるのだそうで、今回は書架に並べきれなくなった分を売りに出されるということでした。 一緒に行った息子も会場に入るなりすぐお気に入りの絵本を見つけました。それがこちら。 それも納得、ぐずったときは抱っこして窓から道を行き交う車を見せればご機嫌になってくれるし、おもちゃのミニカーをいつも肌身離さず持ち歩くくらい車が大好きな新・二歳児。 ひと月ほど前からは日本語で色を認識して言えるようにもなったので、シンプルに色分けされた車が登場するこの本は彼にぴったり。案の定、本を開くなり「キイロ、アオ、ブブ!」と夢中でお喋りを始めました。 車の色ごとに、ぱっぱっぱっ、ぶーぶーぶー、と走行音も違います。こんなにシンプルなのに目にも耳にも楽しい本で、0歳の赤ちゃんから読んであげられるおすすめの一冊です。 線のないやさしいイラストはなんだか見覚えがあると思ったら、かつてマリメッコ社でも活躍していたテキスタイルデザイナーの脇坂克二さんによるものでした。 さて、バザー会場の話に戻ります。色とりどりのブーブーの本に飛びついた息子にすかさず私は「この本いいね!買って上げるねー!」と言ってお菓子を与え、その間に他の絵本を物色。 普段は街の本屋さんに連れて行ってもじっとしていないからゆっくり本を選ぶどころかすぐ退散…という調子なので今回も恐る恐る連れて来たのですが、最初に彼の気を引く本が見つかったおかげで比較的ゆっくりお買い物ができたのでした。 「ママ、これ欲しい」とはまだ言えないけど、終始この絵本を手放さなかったので自分から欲しい本を選んだようなもの。これはちょっと記念の一冊になりそうです。 ところで、わが家からボローニャ旧市街は自転車で片道20分ほどの道のり。バスは息子がじっと乗ってくれないので普段のお出かけはいつも自転車です。 でもこの日はとても寒く今にも雨が降りそうなあいにくの天気で、楽しみにしていたバザーも諦めかけていたのですが…なんだか良い本に出逢...

五味太郎とペンギン親子に夢中

ずいぶんお久しぶりです。 いろいろな事情でしばらくこのブログをお休みしておりました。 書き出すとつい没頭してしまい、もっと目の前の子供との時間を優先するべきではないかと思ったり、目を傷めてしまったり。ブログの無期限休止の考えも頭をよぎりましたが、続けてほしいとの声もいただき、なんとも半年ぶりに新しい投稿を書いています。 読者のみなさん、お元気でしたか。新しく立ち寄ってくださったかた、はじめまして。 もちろん、私の絵本好きからくる息子への読み聞かせはお休みしていたわけではありません。むしろ、一歳を少し過ぎた頃から絵本への反応がどんどん積極的になって、ますます親子で一緒に読む時間を楽しんでいます。 まず、お気に入りの本というのがあって、それを毎日毎日自分で本棚から引っ張ってきては「ねえ、よんで、よんで」と言わんばかりに膝の上にのって読み聞かせをせがんでくれます。 それだけでもとってもかわいいけど、目を見張る成長といえば…最近こちらが話すことを理解し始めた彼は、絵本の内容もしっかりわかっているのです! 特に今日ご紹介するこちらの二冊は目下の大のお気に入り。まずは五味太郎さんの 「たべたのだあれ」。一歳になる前に買い与えた頃はまだ反応が薄かったのが、今ではページをめくるたびに「○○たべたのだあれ?」とこちらが問いかけると、絵を指さして「ア―、アー、」と答えてくれます。 もう一冊、息子を虜にしているのが畳の上に写っている「ぺんぎんたいそう」。親子ペンギンと一緒に、腕をふったり、足をあげたり、お尻をふったり。ほんとうにそのしぐさをまねながら何度も何度も自分でページをめくるんですよ。 最初それをしだした頃はびっくりしました。近所の図書館の司書さん一押しの絵本としてお勧めいただいたのですが、ほんとうに大当たりです。 昨夏日本に里帰りして以来、たくさんの日本語の絵本に触れ、気に入ったものは惜しまず買って集めてきました。なかには新しく出逢ったものだけでなく、子供の頃に私自身が親しんでいたけどもう手元にはなくて改めて購入したものもあります。 また普段から読書は基本的に原版の言語で、という考えの私ですが児童書に限っては日本語訳を選ぶこともあります。それは、またイタリアに戻っても日本語での語りかけや読み聞かせに力を入れていきたいから 。 あとは、今日は登場しませんが大好きなディック・ブルーナ...

創作読み聞かせ、してますか?

冬休みも終わり、また日常が戻ってきました。 みなさまは楽しい年末年始を過ごされたでしょうか。私たち家族は南チロル地方の雪山でホワイトクリスマスを、ボローニャで穏やかなお正月を迎えました。 雪山では生まれて初めての焚火に大興奮し、凍った湖の上を歩き、真っ白な丘の斜面を笑い転げながら駆け下りていた息子。そのあとはボローニャで久しぶりにいとこのお兄ちゃんたちと遊んでまたいろいろと刺激を受けたのか、この数週間で一段と成長した気がします。 お喋りも日々上達の一途で、いつの間にか二語で話すことが多くなりました。昨日は車の中で「おうち やー!」(お家、嫌)と、まだ帰宅したくない気持ちを繰り返し訴えていました。 このように何かを拒否するときの声の調子の強いこと。イタリア語でもはっきり「No!」と主張します。でも私が相手なら日本語で「やー!」で、イタリア人の義母はしばらくそれをドイツ語の"Yes"である「Ja」(ヤー)と聞き取って意味を真逆にとっていました。 対して肯定するときの声はとても嬉しそう。イタリア語では「Sì」と言えますが、 日本語ではなぜか「ねー」と言います。まだ言葉が話せなかったときは「うん」とうなずいていたのに、いつからこうなったのでしょう。 そういえば私が「これ、おいしいねー」とか「じょうずだねー」と語りかけてきたので、その語尾をいつしか肯定のニュアンスとして理解したのかもしれません。でも、このいつもやさしめに発音してくれる「ねー」がとても微笑ましくて私は大好きです。 意思表示がますますはっきりしてきた息子、寝る前に一緒に読む絵本も彼が決め、私が選ぶものはだいたい却下されます。お気に入りの本は数か月サイクルで変わるようで、この頃は「何がいい?」と聞くとほぼ決まって「ムーミン」と答えます。 もともと私がトーベ・ヤンソンのムーミン・シリーズが大好きで、小説や絵本が家に10冊ほどあるでしょうか。小説は児童書ながら大人の心にも響く言葉が散りばめられていて哲学的だし、鮮やかな絵本はため息が出るほど美しい。でも二歳の我が子に見せるのはまだまだ先と思っていたある日、ボローニャ児童図書館の幼児向けコーナーで見つけたのがこの本でした。 借りて帰って読み聞かせてみると息子もとても気に入った様子。ページ毎にある仕掛け扉をめくりながら読むのが楽しいみたいです。扉の下には...