冬休みも終わり、また日常が戻ってきました。
みなさまは楽しい年末年始を過ごされたでしょうか。私たち家族は南チロル地方の雪山でホワイトクリスマスを、ボローニャで穏やかなお正月を迎えました。
雪山では生まれて初めての焚火に大興奮し、凍った湖の上を歩き、真っ白な丘の斜面を笑い転げながら駆け下りていた息子。そのあとはボローニャで久しぶりにいとこのお兄ちゃんたちと遊んでまたいろいろと刺激を受けたのか、この数週間で一段と成長した気がします。
お喋りも日々上達の一途で、いつの間にか二語で話すことが多くなりました。昨日は車の中で「おうち やー!」(お家、嫌)と、まだ帰宅したくない気持ちを繰り返し訴えていました。
このように何かを拒否するときの声の調子の強いこと。イタリア語でもはっきり「No!」と主張します。でも私が相手なら日本語で「やー!」で、イタリア人の義母はしばらくそれをドイツ語の"Yes"である「Ja」(ヤー)と聞き取って意味を真逆にとっていました。
対して肯定するときの声はとても嬉しそう。イタリア語では「Sì」と言えますが、 日本語ではなぜか「ねー」と言います。まだ言葉が話せなかったときは「うん」とうなずいていたのに、いつからこうなったのでしょう。
そういえば私が「これ、おいしいねー」とか「じょうずだねー」と語りかけてきたので、その語尾をいつしか肯定のニュアンスとして理解したのかもしれません。でも、このいつもやさしめに発音してくれる「ねー」がとても微笑ましくて私は大好きです。
意思表示がますますはっきりしてきた息子、寝る前に一緒に読む絵本も彼が決め、私が選ぶものはだいたい却下されます。お気に入りの本は数か月サイクルで変わるようで、この頃は「何がいい?」と聞くとほぼ決まって「ムーミン」と答えます。
もともと私がトーベ・ヤンソンのムーミン・シリーズが大好きで、小説や絵本が家に10冊ほどあるでしょうか。小説は児童書ながら大人の心にも響く言葉が散りばめられていて哲学的だし、鮮やかな絵本はため息が出るほど美しい。でも二歳の我が子に見せるのはまだまだ先と思っていたある日、ボローニャ児童図書館の幼児向けコーナーで見つけたのがこの本でした。
借りて帰って読み聞かせてみると息子もとても気に入った様子。ページ毎にある仕掛け扉をめくりながら読むのが楽しいみたいです。扉の下には必ず誰かが隠れていて、ムーミンに話しかけます。
この木の下に動物が隠れているページには見覚えがあると思ったら、以前ボローニャ国際絵本見本市で見かけて気に入った本だったことを思い出し、早速本屋さんへ。ところが残念、借りてきたイタリア語版はもう廃版になっていました。
じゃあ日本語なら…と検索してみるも、どうやら日本では未出版のよう。それでもあきらめず探し続けたところ、運よくイタリアの版元から希少な在庫を取り寄せることができました。
Mumin fa un picnic というタイトルにピクニックのお話しかと思いきや、ムーミンがバスケット片手に野原や森、海岸を歩いていくとやがて暗くなってきて…。ヤンソンお得意の冒険仕立てになっていました。
最初は意気揚々に道を進むムーミン、日が落ちてちょっと怖い思いをした後には仲間(スノークのおじょうさん)との出逢いがあり、最後は道すがら出逢った動物たちもムーミンの家を訪ねて来ます。
このクライマックスが息子は一番好きなようで、私が家のドアをたたく真似をしながら「トントントン、こんにちは!」「だれですかー?」「○○ちゃん(息子の名前)いますかー?」「あ、いらっしゃーい!」と適当に読み聞かせると、彼も楽しそうに「トントントーン!」と便乗してきます。
いずれは本に書いてあるままを読むかそれを日本語に訳して読んであげたいのですが、今はまだナレーションの多い絵本に集中できないお年頃。
そこで、息子が気まぐれに開いたページの仕掛け扉を一緒にたたきながら「トントントン」「いないいない、ばあ!」「あ、誰かいるよ!」などと言ったり、彼も持っているようなおもちゃや知っている食べ物が出てきたら「○○ちゃんのと同じだねー!「あ、リンゴだ!」などと語りかけながら即興で創作読み聞かせをしています。なかなか面白いですよ。
さて先日、日本から持ってきた荷物を整理していたらびっくり。この絵本の原題ミニサイズが出てきました。昔友人からヘルシンキ土産にもらっていたもので、仕掛けはないけど中身は全く同じでした。しばらく見ないうちに忘れていたけど、きっとこの本とは縁があったんですね。
フィンランド語のタイトル Muumipeikko eksyy を翻訳検索してみると、"ムーミントロール、道に迷う"という意味が出てきました。なるほど、このほうが絵本の趣旨にぴったりな気がします。
ちなみに作者はトーベ・ヤンソンではないので、おそらく彼女の没後に作られた幼児向けスピンオフなのでしょう。ともあれ私が愛読してきたムーミン・シリーズの世界観をちゃんと継承していて、それをこうして幼い息子と楽しめるのは嬉しいこと。
私は大人になってから読むようになったヤンソン著の小説も、彼には小学生くらいから読ませたいです。それから画家としての彼女の作品も素晴らしいからいつか彼に見せたい。たとえばヘルシンキに常設のこちらの壁画、こっそり隠れているムーミンを一緒に探したら楽しいだろうな、なんて想像が膨らみます。
この壁画は画家自身も登場するパーティーのワンシーンを描いたもの。そういえばムーミンの小説にも度々パーティーの場面が出てきます。フィンランドの人はパーティーが好きなのでしょうか。
それはイタリア人もしかりですが、パーティーともなればこの絵のような優雅な雰囲気とは程遠く、ワイワイと騒がしいお国柄。特に年末は親元に家族が勢揃いするクリスマスや街中大騒ぎになる大晦日と、一年でいちばん賑やかな季節かもしれません。
私たちも去年の大晦日はパーティーのお誘いを受けていましたが、子供も小さいし結局は家族だけでゆっくりしました。夜は夫婦ともども疲れ果てて23時半に就寝したものの、年越しの打ち上げ花火や爆竹の連発音に起こされ、一瞬寝ぼけ眼でおめでとうと言い合ってはまたすぐ深い眠りの底に。
これが南イタリアだったらそうはいかなかったかもしれません。昔ナポリ近郊で年を越したとき、朝が来たかと思うほど眩いばかりの打ち上げ花火が四方八方田舎の夜空を照らしていました。
こうしたお祭り騒ぎは酔っ払いの喧嘩にエスカレートしたり、火薬でけが人が出たりすることも。ボローニャの繁華街も大晦日当日は夕方から厳重警戒態勢が張られ、飲食店や商業施設はどこも閉まっていました。
ライトアップされた旧市街の広場で盛大な花火にカウントダウン、一度は居合わせてみたいと思いつつ、やっぱり私はしーんとした冬の闇に除夜の鐘が鳴り響く、心が清められるような日本の年越しが恋しいです。
それでは今日はこのへんで。今年もどうぞこのブログをよろしくお願いします!
この本について
題 Mumin fa un picnic(廃版※)
作者 Riina Kaarla, Sami Kaarla
出版 2011年10月 Gallucci
※原題(フィンランド語)Muumipeikko eksyy はTammi社より販売中のようです。
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