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親であるよろこび

「二月逃げる」と母がよく言っていましたが、ほんとにあっという間であさってからもう三月。日本はじきに桃の節句ですね。うちの庭にも桃の木があったらどんなにいいことでしょう。でも代わりに、八日の国際女性デーのシンボルでもあるミモザがたくさん開いてきました。

三月と言えばボローニャでは毎年恒例の国際絵本見本市、Bologna Children's Book Fairが開催されます。それに合わせて会場の外でも様々なイラストレーターの展覧会、子供向けの催しなどサイドイベントが開催され、街中が本とアートで国際色豊かに賑わいます。六十回目となる今年は例年より早く来週六日に開幕。私も四年ぶりに参加しますが、どんな作品や人との出逢いがあるか楽しみです。

さて、我が息子はもっぱら寝る前はムーミンの本を、昼間は相変わらず大好きなぶーぶーぶーの本ミッフィーの図鑑を開いては知っている言葉や色を得意げに話してくれます。冬の間は公園の代わりに図書館で過ごすことも増え、彼が気に入って借りて帰った本の中でお見せしたかったものがあるのですが、しばらく肌身離さず持っていたかと思ったらすぐに飽きてしまいました。彼の定番となった三冊の魅力には敵わなかったようです。

その本はもう返してしまいましたがなかなか面白かったので詳しくは次回にでも。代わりに、今日は特別編として今月夫と自分のために買った本を二冊お見せします。いずれ過ぎゆく幼い我が子と過ごす日常が、男の子とパパ、女の子とママを主人公にそれぞれ十四場面ずつ描かれていて、思わず「わかるわかる!」と自分たちの経験と照らし合わせては笑顔になってしまう作品です。


図書館通いのある日、本棚をあさる息子を追い掛け回していたら写真左側のパパと男の子が表紙になっているほうを見つけ、その微笑ましい内容と黄色を差し色にした三色刷りの洒落たイラストに一目ぼれしました。最初に出版されたアメリカ国内外で受賞歴があるのも納得の作品で、今や十カ国語で出版されています。

図書館で出逢ったのはサイズが大きめのイタリア語版で、そのあとすぐ夫に贈ろうと英語原版を買いました。さらに赤色を差し色にしたガールズバージョンもあると知り同じく英語版を購入。こちらもイタリア語訳を読み比べたくて図書館で取り寄せたので、こうして四冊揃った写真が撮れたわけです。

読み比べた結果、ボーイズバージョンのイタリア語版にはところどころ直訳表現されていないページがありました。ちょっとした言い回しにも文化の違いが現れるのかもしれません。たとえばこの黄色いトラムの中の場面を見てみましょう。

英語: I  show you how to talk to strangers...(知らない人に話しかける方法、教えてあげる)
伊語: Ti mostro come farsi nuovi amici...(新しい友達の作り方、教えてあげる)

たしかにラテンの血が流れるイタリア人はアングロサクソン系の民族より人懐っこいかもしれないので、「友達」という訳語選びには賛成です。

ちなみに「教えてあげる」と話しかけているのは男の子で、各場面こうして幼い子が親に与えてくれる何かが表現されています。

では、この一文を最もしっくりくる日本語にするなら…ちょっと思い切った意訳ですが、「ぼくといたら、ひとみしりしないでしょ」なんてどうでしょう。これは根が人見知りな私らしい訳かもしれませんが。

というのも、純粋で怖いものなしの息子に我が子ながら感心するのが、まだ言葉を覚え始めた二歳未満のときから誰に対しても挨拶をはっきりするところ。それは目の前の家族友人に留まらず、たとえば道行く人に家の二階のテラスから大声で「Ciaaaaao!」と元気いっぱい手を振るのです。そばにいるわたしはちょっと遠慮気味に苦笑しつつも恥ずかしがってなんかいられません。

こんな愛嬌たっぷりの幼子を連れていると、すれ違いざま見知らぬ人に微笑みかけてもらったり話しかけられたりすることもしょっちゅう。ティーンエイジャー連れではそうないことでしょうから、きっと今だけの特権ですね。あ、これを読んでくださってるお父さんお母さんも経験ありますか?

一方でママと女の子の物語にも微笑ましい場面がたくさん。冒頭写真で開いているページでは日当たりのよさそうなリビングでヨガをするママの足の上に女の子がのっかかっていますが、息子もしょっちゅう私によじ登ったりぶら下がったりして遊びます。横になっていたらいきなりお腹の上で飛び跳ねられることも。これを逆手にとって腰痛をマッサージしてもらおうと企むもなかなか痛いところは踏んでくれません。

どの場面も共感せずにはいられませんが、一番好きなページを選ぶならこちら。"and I change your mood."とありますが、息子も私が帰宅するとよくこんなふうに両腕全開で迎えてくれます。もし疲れていても嫌なことがあっても、どんな気分も吹っ飛んでしまいます。世の中のお父さんお母さんもきっとそうですよね!


ところでこの二冊、いつも通り「いっしょによんだ本」としてご紹介できるよう試しに息子を膝にのせて開いてはみましたが、色数が少ないからか興味を示しませんでした。だからどちらかというと大人向けの絵本としてお勧めします。

私たち夫婦のように幼児の子育て真っ最中の人、昔を振り返って懐かしむステージに入った先輩方、その成長した子供たちにもぜひ手に取ってほしい。まだ実現していない日本語での出版も強く望みます。

さて、今日はいつもより少し短いですがブックフェアの準備もあるのでこの辺で。会場には今日の作者ミゲル・タンコさんもミラノからお見えになるよう。「あなたの絵本、大好きです!」とお伝えできる機会があるでしょうか。

それでは次回もどうぞお楽しみに!

今日お話しした本について

題  You and Me, Me and You 
作者 
Miguel Tanco
出版 2017年4月 Chronicle Books 
訳書 イタリア語版「Io e Te, Tu e Io」のほかスペイン語、カタルーニャ語、フラン語、韓国語、中国語、へブライ語以上9カ国語で出版

題  Mom and Me, Me and Mom
作者 Miguel Tanco
出版 2019年3月 Chronicle Books 
訳書 イタリア語版「Io e Mamma, Mamma e Io」


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