本を読むよろこびって何でしょう。
新しい知識が増える。知らない世界を垣間見る。インスピレーションがひらめく。絵本の場合はこれらに加え、美しい挿絵を楽しめる。
こうしたことは年々増えつつある電子ブックでも可能ですが、刷られた本でしか味わえないよろこびは格別です。
たとえば、ページをめくるよろこび。ゆっくりおそるおそる、あるいはパラパラ駆け足で。自分のペースでめくれるのは紙の本だけ。
年季が入ったものなら、その独特の匂い。
あるいは、インクと紙ならではの温かみと深みのある発色。
特に上の三つについて、とびきり上質なよろこびを与えてくれるのがこの本です。
アメリカの画家で絵本作家だったダーロフ・イプカーの、I Like Animals。かつてボローニャ旧市街に借りていたアパートの近所にそれはそれは小さな本屋があったのですが、そこでひとめぼれしたものでした。
何が良いかって、もともと1960年に出版されたものが廃盤となっていたところ、2014年に初版さながらの伝統的な色味や風合いを忠実に再現したかたちで復刻出版されたものなんです。作者によるオリジナルの刷版は失われていたので、現代のリマスター技術が用いられたとのこと。
そんなことは知らず、ただそのぬくもりある色彩、やさしい手ざわり、うっとりするような挿絵が気に入って購入したのですが、ページをめくるたびにそれはそれは幸せな気持ちになれる宝物のような一冊。
こんな本にはそう巡り合えません。手持ちの数ある絵本の中で一番美しいと言っても良いかもしれません。
なかなか希少なようで、出版元のホームページでは欠品になっていたり某大型書籍通販サイトでも稀にしか出品されていなかったり。手元の一冊も例のお店では最後の在庫でした。
息子が生まれるまではアート作品のように私自身が眺めて楽しんでいましたが、彼が生後1ヵ月の頃、初めてこの本で読み聞かせをしてみました。対象年齢は小学校低学年くらいからになりそうですが、カラフルな毎ページに0歳の息子も釘付け。
主人公は生き物が大好きな男の子。「僕が○○だったら、あんな動物、こんな鳥、それから…たくさんの生き物に囲まれていられるのに」といった調子で次々といろんな職業を想像する展開になっています。
またちょっとした生物図鑑のごとく、ふだんなかなか耳にしないような動物や虫、魚などの名前がいろいろと出てくるところも面白いです。あらすじはとてもシンプルですが、繰り返し読むごとに男の子の好きなものに対する純粋な気持ちや想像力が伝わってきて、なんだか幸せになれます。
私も子供のころは単純に「これが好きだから大きくなったら何々になりたい」と将来を夢見ていたことを思い出しました。実際大きくなると、何かの仕事に就こうにも現実的なことにいろいろ左右されたり、頭の中であれこれ考えすぎたり。
でも、こういうまっすぐな「好き」の気持ちはいくつになっても、何をするにも大切にしたいもの。いつか言葉がわかるようになった息子に改めて繰り返し読ませたい、読んでほしい。そんな、長く長く大切に読みたい一冊です。
さて、この本のタイトルはどうやら作者自身に当てはまるのではないかと思うほど、彼女の作品はもっぱら動物やいろんな生き物が主題。廃盤になったものも多いですが、どこかで出逢えたら読んでみたい、手に入れたいと思っている著書がたくさんあります。
また、いつか画家でもあった彼女の原画を見ることがちょっとした夢でもあります。
この本について
題 I like animals
著者 Dahlov Ipcar
挿絵 Dahlov Ipcar
出版 1960年(初版)、2014年 (復刻版) Flying Eye Books
訳本 J'aime les animaux (仏)、Me gustan los animales (西)